「群青物語 〜青き追憶の呪い〜」「群青物語 〜青き追憶の呪い〜」

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02.山田涼介の呪い

目を覚ますとそこはホテルの一室だった。
先程まで過ごしていた部屋のはずなのだが、何処かおかしい。
一匹の魚も泳いでいない水槽。壁にかかった「青い狐」の絵。部屋は青く染まり、まるで温かみを感じられない。
意識を失う前の記憶を思い出す。
――閉まりかけたエレベーター。
――一緒に乗っていた知念。肩に付いた糸くず。
――用意したサプライズのケーキ。砂糖入りの甘いコーヒー。
だが、その記憶は不明瞭で、断片的にしか思い出せない。
山田は起き上がり、カーテンを開ける。だが、そこから見える外の景色は、全てが闇に包まれており、人の気配はおろか、街灯の一つも灯っていない。
フロントへの電話も繋がらない。サイドテーブルに置かれた鍵には、おそらく部屋番号だろう、数字で「266」と書かれている。
妙な不安にかられ、慌てて部屋から出る。無限に続くと思われるホテルの廊下は、延々と部屋だけが続いており、他の階へ通じる出口もない。
奇妙なことに、どの扉にも「266」と書かれ、どの部屋に入っても完全に同じ間取り。誰も居ない。
――おかしい。
突然背後で、扉が閉まる音が聞こえた。
――誰かいるのか?
廊下へと飛び出す。視界の先に一瞬、見覚えのある背中が「266」号室に駆け込むのが見えた。
後を追う山田。遮二無二に部屋へと飛び込む。だが、そこには誰も居ない。もぬけの殻である。一匹の魚も泳いでいない水槽と、壁にかかった「青い狐」の絵が、殊さらに不安を掻き立てる。
ベッドサイドのメモに走り書きをする。「青い狐」「266」
背後からまた扉の閉まる音。また廊下へ飛び出し、また視界の先に見覚えのある背中。
不安は強くなっていく。追っていた背中は部屋に入るとまた姿を消している。視界がぼやける。山田は振り払うように、傍らのグラスを掴み、勢いよく壁に投げつける。
音を立てて割れるグラス。
また繰り返す、扉の閉まる音。
薄々分かっている。だけどそんなこと、信じられるわけないじゃないか。
だが——、あれは俺だ。俺が俺を追いかけている。
その背中はまた違う「266」号室へと入る。山田も追う。だがやはり、もぬけの殻。そしてその部屋の片隅には、粉々に割れたグラスの破片が散らばっている。ついさっき、山田自身が割ったはずの破片が。
慌ててベッドサイドのメモを見る。するとやはり明らかに、自分自身の筆跡で「266」「青い狐」と書かれている。
――ここは、何処なんだ。俺はどうなってしまうんだ。
不安はもはや恐怖へと変わり、、山田はただ叫ぶことしか出来なかった。薄暗く青い部屋に、慟哭だけが響いている。
その時、壁にかかった絵の中の「青い狐」がうっすらと微笑んだ。

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